老人ホームの入居一時金にかかる相続税と注意点

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老人ホームの入居一時金の拠出時・相続開始時のそれぞれに、相続税または贈与税の課税関係が発生することはご存知でしょうか。拠出時・相続開始時に分けてご説明します。

1.老人ホームの入居時の課税関係(贈与税)

入居一時金は通常高額であることから、いずれか一方(たとえば妻)が入居する際には自身で資金を準備できず、配偶者(たとえば夫)が拠出することもあります。
そのような場合に、配偶者拠出の入居一時金が、贈与税の課税対象となるか否かが論点になります。

この判断の分かれ目となるのは、配偶者による入居一時金の拠出が、入居者の生活費に充てるために通常必要と認められるものかどうか、つまり贈与税の非課税財産である「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」(相続税法21条の3第1項2号)に該当するかどうかです。

この点について、被相続人が生前に配偶者のために入居一時金を拠出した事例で、その入居一時金が、贈与税の課税財産に該当するか否かが争われた国税不服審判所の裁決事例が2つあります。

❶贈与税の非課税財産に該当するものとされた事例(平成22年11月19日裁決)

(事実関係)
被相続人の配偶者は、老人ホームと入居者を配偶者とする入居契約を締結した。
配偶者に代わって被相続人は入居一時金として945万円を支払った。
定額償却期間(5年)以内に入居契約が終了した場合は、一定の返還金が、返還金受取人に返還される契約であり、被相続人は配偶者の入居後数か月後に死亡した。

(判断)
配偶者は高齢かつ要介護状態にあり、被相続人による自宅での介護が困難になり、必要に迫られて本件老人ホームに入居したこと、本件入居一時金を一時に支払う必要があったこと、配偶者は入居金を一時に支払う金銭を有していなかったため、被相続人が配偶者に代わって支払ったこと、被相続人にとって入居一時金を負担して配偶者を老人ホームに入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること、本件老人ホームはその目的を超えた華美な施設とはいえず、むしろ配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったと認められることから、入居金に相当する金額は、介護を必要とする配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当とし、相続税法21条の3第1項2号に規定する「贈与税の非課税財産」に該当すると判断した。

❷贈与税の非課税財産に該当しないとされた事例(平成23年6月10日裁決)

(事実関係)
被相続人および配偶者は、配偶者を主契約者(入居一時金負担者)、被相続人を追加契約者として入居契約を締結した。
入居して3か月後に被相続人は死亡した。
被相続人及び配偶者が老人ホームに入居するにあたり、入居契約上、配偶者が支払うべき入居一時金(1億3,000万円) のほとんどは被相続人が負担した。

(判断)
入居一時金が極めて高額であること、老人ホームの共用部分としてフィットネスルーム、プール等が設置されていることなどから、老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であると認めることはできず、相続税法21条の3第1項2号規定の「生活費」には該当せず、「贈与税の非課税財産」に該当しないとした。

ただし、❶の裁決事例があるといっても、通常生活費として必要な資金は、その必要の都度、支給されるべきという考え方が根強くあり、将来必要になるからといって、まとめて支給を受けると贈与と指摘されるリスクがあることに留意すべきでしょう。
上記の考え方は、平成25年度税制改正によって新設された教育資金贈与の非課税制度も同様であり、教育資金の必要の都度支給される限り、それは民法上の扶養義務の範囲内の行為であり、贈与税の課税関係に至りませんが、それを超えて支給を受けると、例えば祖父母から孫への「財産の移転」と認定される可能性が高まります。

老人ホームの入居一時金は、その名のとおり、「一時」に支払うものであり、分割払いは通常許容されませんが、その場合は、老人ホームに入居しなければならない介護状態であったか否か(自宅療養中に一時に資金を移転させれば贈与認定されるでしょう)も事実認定の対象になることが考えられます。

2.老人ホームの相続開始時の課税関係(相続税)

❶相続財産か否かについての判断

老人ホームの入居者が死亡した際には、入居一時金が相続人又は契約上の受取指定者に返還されるか、夫婦で入居して一方の者のみ死亡した場合には、配偶者に承継されることがあります。
これらの場合に、入居一時金の返還金が相続財産に該当するか否かが論点になります。
これについては、その返還請求権は金銭として見積もることのできる経済的価値のある権利(金銭債権)である、被相続人固有の相続財産に該当することになります。

❷小規模宅地等の特例

平成25年度税制改正により、老人ホームへの入所により空家となった被相続人自宅敷地に対する小規模宅地等の特例の適用要件が緩和されました。
(改正前)
① 家屋の維持管理がされている
② 終身利用権が取得されていない
③ 介護のために入所したものである
④ 貸付等の用途に供されていない
(改正後)
① 相続開始直前において要介護認定・要支援認定を受けていたこと
② 貸付等の用途に供されていない

そして、平成30年度税制改正によって、特例の適用対象となる入居施設について、従前の養護老人ホーム、特別養護老人ホーム 有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅等に加え、平成30年4月から制度化された介護医療院も対象になりました。
介護医療院は、要介護者に対して、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設であり、地方公共団体・医療法人・社会福祉法人などの非営利法人等が開設主体となります。

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